2010年2月22日月曜日

知財高裁 平成 21年 (行ケ) 10081号 審決取消請求事件

相違点に係る構成を採用する解決課題ないし動機もないから、容易想到ではないと判断された事例です。構成が容易想到でなければ、効果が本願発明の構成特有のものでなくとも進歩性があると言っています。

『・・・これらのことから,引用文献には,動画像情報の基本ビットストリーム及び付加ビットストリーム,すなわち基本部分及び補足部分を分割して記憶することが記載されているといえる。
 しかし,動画像情報を複数に分割して蓄積することが基本ビットストリーム及び付加ビットストリームをそれぞれ別の記録媒体に蓄積することを一義的に意味するものではなく,また,引用文献には,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームをそれぞれ2個の記録媒体に分けて蓄積する構成とする解決課題ないし動機は記載されていないから,上記記載のみによっては,引用発明において前記構成要件①の構成を採用することが容易に想到し得たということはできない。
・・・
 そうすると,引用発明は,利用者側の複合器がスケーラビリティ機能を持たないことを前提としており,基本ビットストリームと付加ビットストリームを含む記録媒体が更新処理器側に配置されていることは必須の構成であるから,基本ビットストリーム(基本部分)と付加ビットストリーム(補足部分)とがそれぞれ別の記録媒体に蓄積されていたとしても,利用者側に更新処理器(本願発明の併合手段に相当)を配置することやその一方を利用者側に配置し他方を通信ネットワーク(本願発明の伝送ラインに相当)を通じて利用者側にリンクする構成とすることは排除されているというべきであり,前記構成要件②の構成を採用することが引用文献に記載された課題から容易に想到し得たということはできない。
・・・
 なお,引用文献(甲1,乙1)には,「2.ビットスケーラビリティの問題点」(72頁13行~73頁3行)の欄に,ビットストリームスケーラビリティには,階層符号化・復号器の低解像度用復号器で何らかの復号- 30 -処理をしなければ高解像度加増を再生することができず処理が複雑であること,復号器での処理量の負担が多くなること等の問題があったことが記載されており,上記引用発明の課題認識に至る過程で,利用者側の復号器が更新処理器の機能を備えた構成が示唆されているということもできる。
 しかし,この場合においても,前記イのとおり,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームをそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積する構成とする解決課題ないし動機は存在せず,仮に,基本ビットストリーム及び付加ビットストリームがそれぞれ別の記録媒体に分けて蓄積されていたとしても,その一方を利用者側に配置し他方を通信ネットワークを通じて利用者側にリンクする構成とする解決課題ないし動機も存在しないのであるから,前記構成要件①,②の構成を採用することが容易に想到し得たということはできない。
・・・
 しかし,前記のとおり,引用発明においては,基本部分及び補足部分を別々の2個の記録媒体にそれぞれ記録することや,基本部分と補足部分とを併合する併合手段を利用者端末側に配置することが当業者が容易に想到し得る構成又は配置であるということができないのであるから,たとえ,原告が主張する効果が本願発明の構成特有のとはいえず,また,記録媒体の価格や視聴料金が適宜決められるものであるとしても,審決の判断に誤りがあるとする結論を左右するものではない
判決言渡 平成21年11月5日

(H.O)

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