数値範囲に相違がある場合に、29条の2の実質同一といえるか否かの判断が示された事例です。
知財高裁 判決言渡日:2009年9月29日
『・・・この点について,原告は,本件訂正発明1におけるW/(2・r)の上限値と下限値に臨界的意義はなく,課題解決のための具体化手段における微差であるから,本件訂正発明1と先願発明に実質的な相違点はないと主張する。しかしながら,特許法29条の2を根拠として先願発明と同一の発明である後願発明について特許を受けることができないとされるのは,先願発明の開示によって後願発明の技術的思想が開示されていると認められるからであるところ,上記のように,先願発明が本件訂正発明の数値範囲を外れる場合に両発明が同一であるということができるかどうかについては,両者の技術的思想を対比して検討する必要がある。・・・
・・・上記(3)で検討したところによると,先願明細書と本件訂正明細書は,共にエアバッグ用のガス発生剤に関する発明を開示するものであるが,先願明細書においては,低温燃焼でより多量のガスを生成する組成物の提供が課題とされるのに対し,本件訂正明細書においては,発熱量を低下させることにより線燃焼速度が低下してしまう組成物の成型を工夫することにより,求められるエアバッグの展開時間と強度を実現することが課題とされているものと認められるのであり,両明細書が課題とするところは明らかに異なるものである。そうすると,上記のような先願明細書における課題に向けられた発明を開示する同明細書の「例2」の記載に接した当業者が,仮に,当該組成物についての明示されていない線燃焼速度を求めることができたとしても,更に進んで,同明細書の記載から単孔円筒状の成型体の厚みと線燃焼速度から求められるエアバッグの展開時間の指数であるW/(2・r)について,0.033≦W/(2・r)≦0.058の数値範囲に含まれるガス発生剤組成物成型体の発明を読み取ることはできないというべきである。原告は,上記(2)のとおり,上記数値範囲に臨界的意義がなく,課題解決のための具体化手段における微差であると主張するが,本件訂正発明における上記数値範囲は,上記のとおりエアバッグの展開時間の指数と考えられるものであり,上記(3)のとおり本件訂正明細書の【0010】において「インフレータシステムに要求されるバッグ展開時間はおおよそ40~60ミリ秒にある」とされていることに対応するものであるということができるから,上記数値範囲(0.033≦W/(2・r)≦0.058)を大きく外れる数値(0.018)について,原告が主張するような微差であるとして,同数値範囲に含まれるものと同視することは到底できないというべきである。』
(H.O)
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